安全・安心な栽培方法にこだわり、品質の向上を探究し続ける/農事組合法人きずな

珠洲おしごとファイル
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日本列島のほぼ真ん中、日本海に突き出た能登半島の最先端に位置する珠洲市。
三方を海に囲まれ、美しい里山里海が広がるこのまちは、豊かな「食」も特徴の1つになっています。
この恵まれた環境で、米づくりを中心に幅広く農業を展開する農事組合法人きずなは、今年で設立16年目を迎えました。
作物の品質や生産方法の開発に常に探究心を欠かさない、代表の桶田 哲三さんにお話を伺いました。

米を中心に、年間を通じて作物を栽培

-はじめに、生産されている作物について教えてください。
うちは水稲が中心で、田んぼの面積は47町歩(47万平方メートル)です。それに加えて、大豆や小豆、ブロッコリーなどを畑でつくっており、冬には原木椎茸「のと115」も栽培しています。

冬も水を湛える田んぼの前で。「農事組合法人きずな」の代表、桶田 哲三さん

-年間の大まかなスケジュールはどんな感じですか?
まず1月に新年度の作付計画を立て、種子や肥料などを発注します。米の品種構成を考えながら、できるだけ収穫の時期を分散するようにします。なぜなら同時に稲が成長すると、米の食味が落ちるからです。
2月になると田んぼを耕起し、3月末頃にビニールハウスで育苗をはじめます。苗も品種ごとに時期をずらして植え、各々1か月ほどかけて育てます。そして、4月になると代かきをして、田植えの準備完了です。
田植えは4月の27、28日頃から。早生(わせ)の品種からはじめて、5月末で全ての品種の田植えが終わります。そして、8月のお盆過ぎから早生の収穫をはじめ、だいたい9月末で全ての収穫が終わります。

稲刈りは品種ごとに時期をずらし、8月のお盆過ぎから9月末まで行う

こうした稲作と並行して、4月になると畑にブロッコリーの苗を植え、6月に大豆、7月に小豆の種をまきます。また、10月には大麦の種をまきます。ちなみに大麦の収穫は、水稲と時期が重ならないよう、翌年6月にします。
10月末になると大豆の収穫、11月には小豆の収穫をして、11月から12月にかけては収穫した豆の選別作業をします。小豆は「能登大納言小豆」といって、羊羹やお菓子によく利用されている品種です。

和菓子などによく用いられる「能登大納言小豆」の選別作業

12月の末頃からは、ビニールハウスで「のと115」という原木椎茸の栽培に取りかかります。ハウスに千本ほどの原木を入れ、室内の温度や湿度を管理しながら育てています。「のと115」の中でも、直径8cm以上、肉厚が3cm以上、巻き込みが1cm以上という規格をクリアすれば「のとてまり」といって、初セリで1個8,000円ほどもする高価な椎茸になります。「のとてまり」になるのは数%くらいです。
ビニールハウスで育てるのは、ほぼ2月いっぱいで、3月、4月になるとハウスから外に出し、路地で栽培するかたちになります。

手のひらに収まりきらないほど大きく肉厚の原木椎茸「のと115」

―一番忙しい時期はいつ頃ですか?
やっぱり5月と9月。これが猫の手も借りたいくらい一番忙しいですね。
その時期は、パートさんやシルバー人材センターにお願いして人手を増やしています。

自然と共生する、安全・安心の米づくり

―会社や商品の売りは何ですか。
米づくりの特徴としては、米の美味しさを引き出す「低タンパク質」「低アミロース」を売りとするため、なるべく化学肥料を減らし、農薬も慣行栽培よりもはるかに少ない量で栽培しており、平成21年にエコファーマーの認定を受けました。
また、苗を育てて田んぼに移植する方法のほかに、種もみを直に田んぼに播く「直播栽培」も県内でいち早く導入しています。
直播栽培の田んぼでは、冬の間は一面に水を張っていて、3月に入ったら全部水を抜いて乾かし、学校のグラウンドのような硬い圃場にします。そこに機械で溝を掘り、種もみを落としていく、これが直播栽培です。種から発芽した後もまた水を張り、稲刈りをする数日前までずっと張ったままにします。
そうすることによって、田んぼには本当に多くの水生昆虫が棲んでいます。市内の小学校で毎年生き物観察会をするのですが、子どもたちがたくさんの生き物を見つけてくれるんです。こんな環境で米を作っている、これも売りの1つですね。
珠洲は、能登半島の最先端で、世界農業遺産に認定されている里山里海に恵まれ、空気も水もきれいですから、「石川県のこんなところでこんな人たちが米を作っているんだ。あそこなら水も空気もきれいだし安心だな」と興味を持ってもらえるといいなと思っています。

―まさに今のお話は、東京の消費者にすごく響くと思いました!米の美味しさはどのように確認しているのですか?
米の美味しさは「食味値」で評価されるのですが、私たちは毎年、石川県の農業試験場などに依頼してこの食味値を測り、それをもとに品質に自信を持って販売しています。

直播栽培の田んぼでは、圃場を乾かした後にV字型に溝を掘り、そこに種もみを落とす

会社のパンフレットでは、メンバーの顔写真や豊かな自然を紹介し、安全・安心をアピール

観光をきっかけにファンになる人多数!

―主な取引先やお客さんについてお聞かせください。
米はJAに出荷するほか、卸売・仲買にも多く出荷しており、東京など首都圏のお米屋さんには、30kgの袋で年間数百袋を直に卸しています。
また、おかげさまで能登でも有名な大きいホテルや旅館、金沢のホテルや割烹料亭にも直売しており、JAよりも高値で買っていただくので、うちの利益にもプラスになっています。

―どのようなときにやりがいを感じますか。
うちのお米を使っていただいている宿の宿泊客の方からお問い合わせをいただき、「お宅のお米は大変おいしい」と褒められたとき、やっててよかったなぁと思います。そういう方々からメールやFAX、電話などで直接注文を受けることもよくあるんです。

―広報活動やPRはどのようにされていますか。
うちはPRが苦手な方なんですが…。ふだんは能登空港の売店や地元の道の駅などで、お土産で持ち帰れるようなポケットサイズ(300gや500g)の商品を置いています。そうしたものを買われて、「あ、美味しいお米やな」ということで、知り合いやご親戚などに口コミで広めていただく、そんなリピーターさんもかなり増えています。

お土産用のポケットサイズの商品(左)は空港の売店や道の駅で販売

大事にしているのは、社員一人ひとりの主体性と協調性

―今、働いている方々の年齢層を教えてください。
20代が1人、30代が2人、50代が2人、60代が役員も含めて6人です。
若い人たちは将来を担う貴重な人材なので、大事にしていますよ。中には、県外から移住した人もいます。珠洲に旅行に来て気に入ったということで、「それは良かった、ありがとう」と。雪には慣れていなかったので、雪かきや雪道の運転を教えたりしました。

―会社としての環境づくりではどのようなことをされていますか。
毎朝、まず朝礼をしてから現場に分かれます。また、夕方にも終礼をして、その日の反省を求めたり、作業の進捗状況を確認し、明日何をやるかを話し合ったりしています。
従業員一人ひとりの自主性が大事だと考えていますので、朝礼・終礼はあくまでもボトムアップを心がけており、私は聞き役になりながら、時々「こうしたら作業の能率がもっと上がるよ」というようなことを伝えています。

日々の朝礼で、仕事の段取りや優先順位などを確認

―従業員同士の交流の場はどのようなものがありますか。
最近は新型コロナの影響で控えていますが、全体で行う会は年に3回ほどあります。
1つは田植え上がりに屋外でBBQをします。また、収穫後はみんなで食事会を開きます。それから2月22日の設立記念日には、役員や従業員をはじめ、ふだんお世話になっている方も招待して、大いに盛り上がります。
それ以外に、朝の様子を見て、ちょっとうつむき加減とか、何かうまくいってなさそうな従業員がいれば、個別で声をかけて飲みに誘い、相談に乗ることもあります。
程良くお酒が入ると、心も開いて大きくなるんでしょうね。正直に自分の思っていることを話してくれるので、「あぁそうやったか。ごめんな、知らなんで」と言ってあげたり。こんな感じで、いろいろ聞いたり相談ごとを受けたりできるので、「飲みにケーション」を大事にしています(笑)

―今後、どのような人材を求めていますか。
一人や二人で働く場所ではないですから、やっぱり協調性を持てる人材が良いですね。
人材に関して、私が年に一度くらい社員みんなの前で話をするのは、3つの「ざい」があるよということです。材料の「材」、財産の「財」、それから在所の「在」ですが、ただ職場に来ているという「人在」でなく、きちんと報連相ができる「人材」であってほしい、さらには、自分で考え、工夫して行動できる「人財」を求めているよ、ということを話しています。
農業を取り巻く環境が厳しい中、これから会社を経営していくには、そうやって意識していかないと生き残れないだろうなと思っています。
人材確保のため、県の農業総合支援機構を通じて農業インターンシップも受け入れています。新型コロナの状況下なので今は遠慮させてもらっていますが、将来的に農業を担ってもらえるような方が来てくれるとうれしいですね。

ドローンを使った圃場管理など、スマート農業にも力を入れ始めている

(以上、インタビュー)


今回のインタビューは、都合によりオンラインにて行っていただきました。職場の雰囲気を見学に行けず残念に思っていましたが、記事作成用に後日送って頂いた写真の数々でその気持ちに光がさすように明るくなりました。協力して一つひとつの作業を行う様子や、ドローンの使用風景、朝礼の様子が、インタビューでの桶田さんのお話とリンクしてよりイメージが広がりました。
「PRの方はちょっと苦手でして」
と話す桶田さんの、生産物の味や従業員一人ひとりへ向き合うときの丁寧さが、商品の認知度というかたちで広まってほしいと思いました。

珠洲おしごとライター 南部 可奈
取材日:2022年1月14日
※「珠洲市実践型インターンシップ2021」として実施