珠洲の絶景を探し歩くと、誰もがきっとたどり着く「見附島」。
多くの人を魅了するこの島は、「珪藻土」の地層でできています。
珪藻土は、能登半島での埋蔵量が日本一といわれており、珠洲の地場産業にも大きく貢献しています。
今回は、「Made in SUZU」のブランドとして「珪藻土コンロ」などを製造・販売している株式会社鍵主工業の代表取締役社長、鍵主 哲さんにお話をうかがいました。
珠洲の珪藻土の特徴を活かした製品づくり
-はじめに、珠洲市で採れる珪藻土の特徴について教えてください。
珠洲の地層は珪藻土がとても豊富で、地質学的には400万年分あると言われています。珪藻土は植物プランクトンの死骸が海底に積もり重なってできた地層のことで、珠洲だけではなく世界中で採掘できるものなんですよ。ただ、地域の条件によって珪藻土の質には違いがあります。つまり、珪藻土とひと口にいっても、バスマットなどで広く知られるようになってきた「吸水性」に優れた珪藻土だけというわけではないんですよ。珠洲の珪藻土は、吸水性よりも「断熱性」に優れており、「耐火性」もバランス良く備わっているという特徴があるんです。
-珠洲の珪藻土を原料に、主にどんな製品を作られ、どのようなところに販売されていますか?
「外に熱を逃がさない」という断熱性を活かして、現在主に製造しているのは「珪藻土コンロ」と「珪藻土煉瓦(れんが)」ですね。我が社の珪藻土コンロは、厨房機器の問屋や通信販売などを通じて取り扱われており、焼き肉店をはじめ全国の飲食店から個人のお客様まで幅広く使われています。
最近では、海外でも珪藻土コンロの人気が出てきて新たな需要もあるんですが、海外で知られるようになると偽物も多く出回るようになって、いろいろと難しいこともあったりします。
型に入れて焼き、ひとつひとつ丁寧に仕上げる
-珪藻土の採掘方法や珪藻土コンロの製造工程を教えてください。
珠洲で珪藻土コンロを製造する会社は4社くらいあるけれど、共同の採掘場がないので、それぞれの会社で独自に採掘場を持っています。
珪藻土コンロのつくり方で言うと、地層からそのまま切り出して成形する製法もあるけれど、我が社では、1)珪藻土を採掘する(その後、細かく粉砕)、2)型で固める(その後、乾燥)、3)焼く、4)仕上げ作業、という工程でつくっています。
地層からそのまま型抜きするより、コストも安く、無駄なく珪藻土を使うことができるんです。
-工程のなかでも、ここはコツが必要など難しいことはありますか?
おそらく簡単な仕事というのはどんな仕事でもないと思いますが、強いて言うなら、最後の工程で風口などに金具を取り付けていくのは、手作業だから繊細な作業になるかと思います。慣れないうちは、ちょっと斜めに取り付けてしまったりするんですよね。
「難しいことを難しくないように進化させる」のが仕事
-会社には現在、どのくらいの社員がおられるのでしょうか?また、どんな方が働かれていますか?
今は35名で、20代から70代まで幅広い年齢層の社員が頑張ってくれていますよ。仕事の内容としては、製造に関わる業務だからコツコツと作業に専念することが多いです。女性社員は10名ほどですが、仕上げの繊細な作業など、女性にも向いている工程があると思うので、もっと女性が増えてほしいと思っています。土を扱う仕事だから苦手な人もいるかもしれないですが。
-「Made in SUZU」の珪藻土コンロに魅力を感じて働きたいと思う移住者は大歓迎でしょうか?
そうですね、現在も珠洲に移住された方が働いてくれていますし、若い世代の方がこの珠洲の地場産業に興味を持ってきてくれると嬉しいですね。我が社でもいろんな職務への関わり方があると思います。例えば、事務職、営業職、あるいはITに詳しいなど…。でも、まずはこの珠洲の自然の恩恵が創り出した地場産業の現場で、珪藻土コンロが出来上がるまでの仕事に触れてみてほしいですね。
これまでの求人はほとんど地元でおこなってきたので、移住を考える方にもこの地場産業を知ってもらえるといいですね。
-これから「働きたい!」という方に向けて会社の魅力やアピールポイントがあれば、ぜひお願いします!
我が社は、珠洲の地場産業としての伝統もありますが、単に昔ながらの技術を守るのではなく、機械化などによって「難しいことを難しくないように進化させる」のが仕事だと考えています。時代の変化や技術の進化とともに、変えるべきところは変え、変えてはならないところは変えない。お客様、会社や社員、関わる人たちがみんな良くなるための苦労はしよう!という感じかな。
これまでに、珠洲の珪藻土の特徴を活かした商品開発にも取り組んできました。以前、我が社も会員になっている「能登珪藻土研究会」で金沢美術工芸大学の学生さんたちと共同開発した「珪藻土ピザ窯」などは、成功した例ですね。
そういう「伝統を守るだけではない」ところにも共感できて、自ら考えて業務にあたれる方と縁があればいいですね。そして、この素晴らしい能登半島の珠洲という場所で、自分の楽しみを自由に堪能してもらえればと思います。
(以上、インタビュー)
インタビューの途中、仕事以外の楽しいエピソードをたくさん聞かせてくださり、関係のない質問にもお付き合いくださった鍵主社長。「新入社員を教育するとか、僕は苦手なんだよね」と、語ってくれた笑顔がとても優しくて印象に残っています。
写真撮影もプロ級だそうで、半島の最先端にある禄剛埼灯台へ日の出を見に行くと、鍵主社長の撮影された写真が灯台の説明に使われていました。
個人的に、七輪で焼く食べ物がご馳走だった思い出があり、珠洲へ移住するなら、広い庭で、はたまたビーチで、珪藻土コンロを使ってみんなでバーベキューをしたい!!と、妄想が大きく広がる素敵な時間でした。