大自然の中で自分らしい生き方を見つける/能登森林組合 珠洲支所

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森林組合は、森林の所有者(山主)の方々から森を預かり、きれいに整備しながら木を育て、木材として販売することによって、最終的に所有者の負担の軽減や利益の還元を目的に仕事をしています。全国各地に森林組合はありますが、このうち奥能登の2市2町(輪島市、珠洲市、能登町、穴水町)にある広大な森林を管轄するのが能登森林組合で、その珠洲支所では、珠洲市内の森林の管理を担当しています。
今回は、日々の仕事を通じて珠洲の森を守って下さっている能登森林組合 珠洲支所長の江端 辰男さんにお話をうかがってきました。

能登森林組合 珠洲支所長の江端 辰男さん。温和な笑顔が印象的。

林業という仕事とは

-まずは森林組合での仕事内容について教えてください。
以前は、木を植え(植林)、育てる(保育)仕事が多くありましたが、最近は木材価格が低迷し続けていることや、人が田舎から都会へ流出し、山に興味を持つ人が少なくなったことから、木を植える仕事が少なくなり、間伐や伐採が主な仕事になっています。

-森林組合での一日の大まかなスケジュールを教えてください。
山の現場に出かける作業員の方は、朝8時ごろから仕事を始め、途中休憩をはさんで16時半~17時ごろに作業を終え帰宅します。一方、事務所の仕事は、個人の山主さんからの委託を受けた山や県の林業公社等から請け負った山の管理方法の検討や作業に入る段取りをし、作業に入っている現場の管理をします。

-現場作業はどのように行われるのですか?
2~5人が1班となり、班ごとにマイクロバスで現場に移動します。最大6班(6現場)、平均3~4班(2~3班で1現場へ入る場合がある為)の編成になります。作業日数はおよそ5ha(50,000㎡)の山を間伐するのに2~3か月かかります。1反(約0.1ha)なら1日くらいで終わりますね。

間伐前の森林

間伐後のすっきりと整備された森林

林業に対する思い

-林業の仕事をしようと思った理由は何ですか?
今回取材を受けるということで、あらかじめ若手社員に聞いてみたところ、
・祖父や父が林業に従事していたから
・自然の中では働きたかったから
・友人に誘われて
・自然が好きで山仕事が好きだったから
などの意見がありました。私自身は、以前、農協に勤めていて、退職後求職していた時に当時の森林組合の役員の方に声をかけていただいたことがきっかけで働くことになりました。

-やりがいを感じる時はどんな時ですか。
こちらも若手社員に聞いてみたところ、
・山の所有者に感謝されたとき
・現場の仕事の評価が良かったとき
・木を伐採するとき
・伐採のときに自分の狙ったところに木を倒せたとき
・山がきれいになっていくとき
などの意見がありました。
私自身は、山主さんからきれいな山になったと喜んでいただけた時にやりがいを感じます。

チェーンソーで切り口を入れて、狙った方向に木を伐採する

-逆に「大変だ」「つらい」と感じる時はどんなときですか?
現場作業においては、夏の暑い時期の下刈作業はつらいと言うより過酷に近いものであり、又、寒い雪の中での作業も厳しいものです。また、急斜面での作業など安全と効率の両立が必要となり、大変でつらいです。
事務所では、仕事が集中しているときの準備・段取りや書類を仕上げるとき、山主さんとの話がうまくいかないときなどです。間伐の方法として、伐採した木材のうち販売可能な木材を林内に残さずに林業機械を用いて運び出し、「間伐材」として利用する「利用間伐」という方法があります。この時には、5ha以上の面積をまとめて整備する「団地化」が必要になりますが、複数の山主さんに声をかけたときに、なかなか合意をもらえない山主さんも、時にはいらっしゃいます。また、木材の価格が安くて、山主さんに還元できる金額が少なくなるときもつらいですね。

林業機械を用いて、伐採した木を一定の長さに切りそろえて運び出す

-木材はどのように流通しているのですか?
質の良い木材は穴水町にある原木市場に出荷しますが、間伐材の中には七尾市にあるベニヤ工場等に出荷するものもあります。また、市場に出してもお金にならない木材は、輪島市のバイオマス発電に供給します。昔は夏に伐採した木はあまり良くないとされてきましたが、現在は需要と供給の関係や作業効率の問題もあり年間を通して市場に出しています。

原木市場への出荷用に積み上げられた木材

-能登の木の特長は何ですか?
能登ヒバ(アテ)という、ヒノキに似た木材があります。スギよりも硬く、殺菌・防腐効果のあるヒノキチオールという成分が含まれ、耐久性もあります。また、香りもよく芳香剤等にも使用されています。
珠洲には珠洲アテという品種があり、一般的に多いアテと呼ばれる品種より木が硬くねじれも少なく材質もよいとの評判もあります。

能登ヒバ(珠洲アテ)の森林

林業に求められる人間像

-どのような人がこの仕事に向いていると思いますか?
若手社員に聞いてみたところ、
・チェンソー等の技術を磨いていかなければならないため向上心とやる気がある人
・体を動かすことが好きな人
・体力的につらい仕事であり、暑い夏や寒い冬も外で仕事をするため根性のある人
・自然が好きな人
などの意見がありました。私自身としては、我慢強い人や、見た目はおとなしくても芯が強い人です。とにかく技術の習得は組合が支援しますので、向上心・やる気のある人に来てもらいたいですね。一般的な作業をこなすことは早い人で1年、一般的には2~3年でできるようになります。適性もありますが、本当の熟練者になるためには10~20年はかかります。熟練者は大きい木を自在に倒したり、高い木に登って枝を落としたりできます。

自然の中での仕事は体力も必要だが、向上心・やる気があればきっと続けられる

-職場の年齢層や出身は?
珠洲支所の作業員全体としては、30代が4名、40代が4名、残りは50代後半から60代です。年齢層の平均は50才以上になります。出身は珠洲出身の方が多いですが、津幡町から移住してきた30代前半の方もいます。木工芸をドイツで修行しており、趣味と実益を兼ねて林業をしています。

-女性も活躍されていますか?
以前は、地ごしらえ(木を植える)時に女性が活躍していましたが、植林が少なくなって女性が減ってしまいました。しかし最近、組合の本所(穴水町)で大卒の女性が入所し、本当にうれしく思います。ただ、トイレの問題など課題もあり、組合としても若い女性が働きやすい環境づくりに、少しずつですが努力して取り組んでいます。珠洲支所には現在女性作業員が1人もいないので、入っていただけるとありがたいです。

-最後に、若者へメッセージをお願いします。
珠洲市は自然も人もいいところです。体力的にきついため中途半端な気持ちではできないですが、自然の中で自分に合ったペースで仕事ができますし、健康にも良く、人間関係で疲れるということもありません。基本的に残業はありませんし、仕事が終わったら残りの時間は趣味に使うことだってできます。

(以上インタビュー)


この情報化社会において私たちはストレスのかかる日々を送っています。私たちの生活は便利になってきたけれども、心の余裕がなくなってきていると感じます。あなたは今の生活に疑問を抱いていませんか?林業なら自然に癒されながら自然の中で身体を動かし、楽しく仕事ができます。きっとその選択に後悔することはないと思います。

珠洲おしごとライター 加藤来(金沢大学)
取材日:2020年9月30日
※能登キャンパス構想推進協議会「奥能登チャレンジインターンシップ」として実施