ドローン、といえば「空撮」のイメージがありますが、意外にも今は政府の後押しもあっていろいろな事業に活用されているようです。
例えば、農業の農薬散布にも使われ始めており、使うのは若い農家さんが多いのかと思えば、年配の農家さんも多いそうです。
少子高齢化や担い手不足など日本全体が直面する課題に、ドローンの存在はいかなる可能性を持っているのでしょうか。
「ドローンに関することなら何でも対応できます!」
と頼もしく語ってくれたのは、株式会社Drone Partner’s代表取締役の浦 達也さん。ドローンをはじめたきっかけから今後の展望まで、いろいろなお話を伺いました。
ドローンと出会い、面白さに魅かれる
―浦さんは、もともと「浦電装」という会社を経営されていると伺いました。
はい、浦電装ではワイヤーハーネスという、自動車の電気配線部品を製造していて、組立てから検査まで一連の作業を行っています。働いているのは主に子育て世代の女性なので、働きやすさを考えて就業時間を9〜16時に設けています。従業員は15名ほどで、半数は隣の能登町の方たちに通ってもらっています。ここで製造したものをハイエースで市内に配達する人が不足していて、今は僕が行っている状況ですね。
この会社を母体としつつ、新しい事業展開としてドローンの会社を2021年1月に立ち上げました。
―ドローンをはじめたのは何かキッカケがあったのですか?
2016年頃にテレビなどで空撮映像が出始めたとき、飛行機よりも低くて普通に見るよりも高い、不思議な高さで「すごいな」と驚きました。実は僕、小学生の時にラジコンでよく遊んでいて、海外ドラマの「エアーウルフ」などの影響もあって、ずっとヘリコプターに憧れていたんです。
それで、友人がドローンのおもちゃを持っていたので、借りていじり始めたら、「これ、面白いな」と。誰かがやる前にやろうと、趣味と実益を兼ねてすぐ始めましたね。最初はスクールに通って、トンボ帰りで東京に講習を受けに行ったりしましたね。
―ドローンの操作は簡単にできるものですか?
できますよ。今のドローンは本当にお利口で、手を離したままでも機体は浮いたままです。2〜3キロ先まで飛ばしてもちゃんと帰ってきます。カメラが機体の全方位に付いていて、全てを立体的に捉えて、その映像を処理しています。360度死角なし。たとえ森の中で直進させたとしても、障害物を察知して自分で避けてくれます。カメラも風に煽られても映像は揺れないから非常に滑らかな映像が撮れる。小型のものでも最近は映画の撮影に使われているくらい優秀ですね。
ドローンの法律や資格制度にすばやく対応
―なるほど、それでは誰でも自由にドローンを飛ばせるのですか?
いえ、ドローンが普及するにつれて、いろいろな事故も発生するようになったため、今では飛ばす人はたとえ趣味であっても国土交通省に登録しないといけなくなりました。ドローンは「無人航空機」として飛行機と同じ扱いを受けるので、航空法で決められた安全対策も必要になります。
例えば、電柱やガードレールも含む第三者の物件から30メートル離さなくてはいけないなどと法律で定められていますし、他にも操縦機の画面を見て操縦してはいけない、という決まりもあります。なので、操縦画面を見て操作するような場合は、その許可も申請したりしないといけないのです。そういった安全対策を含む法律、ドローンを飛ばすための技能と知識を持っていることの証として民間ライセンスがあります。
―その航空法は変わっていくものですか?
どんどん変わっていきます。何かある度に法律が改正されていて、例えばイベントの時は危ないから、今はイベント開催地の上空で飛ばせないようになっています。
一方、国家試験の制度もできて、普通は建物の密集地などでドローンを飛ばせませんが、国家資格取得者は、密集地帯などの特別なところでも飛ばすことができます。
政府もドローン活用の後押しをしていて、将来に向けたロードマップができています。2025年頃までに人が乗れるドローンを飛ばせる空のシステムを作るのを最終目標としています。ドローンの広がりは早かったけど、今はぐっと絞っている感じですね。「絞っている」というのは、より産業や身近な分野で活用する流れになっているということです。
僕は、民間ライセンスはもちろん、講師としての認定も受けていますし、会社はドローン国家資格を取得するための「講習機関」としても登録されました。北陸では、金沢にある会社と、うちだけですね。
活用が広がるドローン、自治体と協力し実証実験も
―ドローンというと空撮のイメージですが、今はどんな方面で活用されているのですか?
身近なところでいうと農業ですね。肥料散布もそうですし、田植えの時に種の直播きもできます。それから測量。距離や面積を図るのに、これまでセスナを飛ばしてやっていたことをドローンに代えればコストを減らせますし、ちょっとした測量も人手で数日かかっていたところが数時間で済みます。
他にも橋梁や橋脚などの点検や補修でも活躍しています。ドローンで写真を撮ってAIにかけると、コンマ何ミリのひび割れまで見える。風力発電の点検も、あんな高いところでも羽が欠けてないか確認できます。
他には、物資の輸送でも「実証実験」の段階を終えて「実装」の段階に入っていますね。
―実証実験とはどんなことをやるのですか?
ドローンの活用は民間だけだとなかなか踏み込めないところもあるので、まず自治体と協力して行います。でも、自治体もドローンがどういうことができるのかイメージがつかない。それで「こういうことができますよ」と実際にやってみせるのです。
例えば、珠洲では2021年に木ノ浦ビレッジからキャンプ場に物資を運ぶ実験をしましたね。珠洲ではないけれど、交通の便の悪い過疎地域のお年寄りに郵便を届けるような実例もあります。
また、この前は山口県の岩国市に呼ばれて、鷺の巣づくりによって天然記念物の樹木が弱ったり住宅への糞害が起きたりしているのを防ぐための実証実験のお手伝いをしました。対策としては、高さ20〜30メートルの樹の上に、自然素材でできた長いロープをドローンで張りました。
―浦さんが行う主な事業は空撮ではないのですね?
空撮は、今ではそれ専門の業者もいるので、あまりやらないです。うちはもっと特殊な分野を扱うようにしていて、主に自治体からの依頼で講習をすることが多いです。例えば、災害時に現場の状況を確認したいとか、広報活動に活用したいという目的で講習を受けられます。依頼は輪島市や穴水町からが多いですね。
また、国家試験の講習の依頼で講師や修了検定員として出向いたりもします。今この外のグラウンドに国家試験の講習場の整備をしている最中なので、完成したら国家資格の試験も行います。
自治体以外では、農家さんを対象に農業用の講習をすることもあります。実証実験は特殊案件なので、そんなに頻度は多くはないです。
会社のこれからとドローンの可能性
―ドローン事業はおひとりでされているのですよね?
そうですね。今は電装の仕事が忙しいので、そちらに費やす時間が多いです。ドローンの業務が増えてきて、講習が定期的に入ると人手が追いつかないので、ドローン事業で任せられる人がいたらいいな、とは思っています。
―このお仕事に向いている方や求めるものはありますか?
空に興味がある人に来てほしいですね。好奇心旺盛、あとは要らない。技術なんていうのは後で教えられるから。
仕事は案件ごとに発生するので、週に一度とか、講習の時に手伝ってくれれば、そのついでにドローンも触れます。他の仕事との複業でもいいので、興味ある人が来てくれたらいいですね。ゆくゆくはその中から本当にやっていく人が育てばと思っています。
―ちなみにドローンの醍醐味とはなんでしょう?
新しい案件が入ってくると楽しい。実証実験などで新しいことをやる時、これからどんなことが起こるのか、うまくいったらどうなるのか、と想像するのが楽しいですね。
―最後に今後の展望やドローンの可能性についてお願いします。
近い将来、ドローンがもっと身近になると思いますね。地方に行けば行くほど、人手不足を補うために省力化できるドローンが活躍すると思います。
珠洲は三方が海に囲まれていて、山間部もあり、冬の厳しさも夏の暑さもあって人も少ない。ドローンを使うにはいい環境がそろっています。地元・珠洲で先進的になっていってほしいと思います。今は水中ドローンも出てきて水深200メートルまで入れます。海はまだまだ未開発ですが、子どもたちに里海を知ってもらう機会にも活用できたらいいなと思っています。
(以上、インタビュー)
一見強面な浦さんに「ドローンの楽しみは?」と聞いた時の笑顔が素敵で、ドローンは浦さんのような好奇心を持った大人を魅了する仕事なのだなと感じました。
日本全国どこも一次産業従事者の高齢化や担い手不足に悩まされている中で、物資の輸送や農業での活用など、今後暮らしの中でドローンが助け舟になっていくのでしょう。珠洲のシンボル的な仕事の多くが伝統や手仕事である一方で、このように先進的な試みも始まっていることを知り、珠洲って進んでいるなと思いました。
珠洲おしごとライター 池田 裕美
取材日:2023年1月24日
※「珠洲市実践型インターンシップ2022」として実施