珠洲の海は二つの顔を持っています。それは、荒々しい外浦と穏やかな内浦。
冬のある日、そんな外浦の表情を眺めながら向かったのは、珠洲という土地の魅力を最大限に活かし、訪れる人を温かくおもてなしする「能登観光ホテル」とお食事処「庄屋の館」。
そこには、丁寧で真っ直ぐな気持ちと珠洲の食材が輝き、訪れたら笑顔になれる、素敵な時間が流れていました。
今回は、経営者であり料理人でもある、有限会社のとかん代表の和田 丈太郎さんにお話を伺いました。
外浦の海が一望できる旅館とお食事処
-旅館と飲食店ができたのはいつですか?
1964年に祖父が旅館を創業しました。庄屋の館はそれから少しあと、1978年です。
旅館をはじめた頃はまだここらに旅館があんまりなかったんですよ。すぐそばにトンネルがありますけど、あそこは昔から交通の難所と言われていて、1964年の東京オリンピックの2年前に初めて開通したらしいんです。その頃、祖父の実家は飯田(珠洲の中心部)で料亭をやっていたんですが、トンネルもできて、これから能登ブームが来るんじゃないかってことで、ここに建てたらしいです。ここは景色を見ながら食事ができるし、それは1つの武器ですね。夕日は最高に綺麗です。
-それから本当に「能登ブーム」が来たんですね。
来ましたね。私もちっちゃい頃で覚えていますけど、忙しかったですね。ここらにも民宿とか旅館がいっぱいありました。毎日お客様を送迎する車が多かったですね。そのころは、寝られればいいみたいなお客様も多くて、ここ(庄屋の館)でいいから泊めてほしいって言うお客様もいました。
-小さい時からお祖父様やお父様の背中を見て育ってこられたんですね。やはりその影響で料理の道に進まれたのですか?
そうですね。父は経営者で、料理はできないんです。料理人がいなくて困ったときもあったらしく、自分の息子は料理ができたらいいなと思っていたらしいんです。私も小さい頃から手伝いを結構やってましたし。いずれ継がなきゃなと思いつつ、大学に4年間通うより料理の道に入った方が早いやろなと思って大阪の調理師学校に進学しました。それで、学校を出てすぐ現場へ入りました。その時は「5年ほど料亭に勤めて、30歳ぐらいまでは修行しときたいな」と思っていたんですが、25歳ぐらいの時に「(庄屋の館の)調理場で一人やめたし、もう帰ってきてもらえんけ」と親から連絡があって帰ってきました。
助け合いの毎日
-1日のスケジュールを教えてください。
旅館の方は朝食の準備から始まって、部屋、館内の清掃をします。チェックインは15時からなので日中は比較的時間がありますね。チェックインされたお客様からご案内し、夕食をお出ししてからは、各部屋の布団を敷いたり夕食の片付けをして、だいたい1日が終わるという感じです。
飲食店の方は、朝からずっとお料理の準備をしています。旅館の夕食と朝食もほとんどここで用意してるんです。忙しい時は行ったり来たり…てんてこまいでやってます。庄屋の館の昼営業が終わったら、すぐ旅館のお客様の夕食の準備をします。庄屋の館でも夜の予約があれば準備をして、翌日の仕込みと片付けをしてっていう感じ。接客のほうは注文を取ったり、店内や外回りを掃除をしたり、テーブルのセッティングをしたり、食器を洗ったりとか、そういった感じですね。
-とてもお忙しそうですね。何人でお仕事をまわしているのですか?
今正社員が3人、アルバイトが1人です。みんなこのあたりに住んでいる人たちですね。
少ないスタッフで旅館も庄屋の館もやっているので、この人はこれっていうのはないんです。調理場のことも接客も、手が足りないときはそこにサポートにまわります。そうしないと全然回っていかないので、みんな一緒になってやってます。
「海が見える」だけではない
-会社のウリはなんですか?
旅館のほうは「ペットと泊まれる宿」というのをウリにしていまして、ペットと部屋まで入れるようにしてあるんです。これは15年ぐらい前に父の代で始めました。結構ペット連れのお客様が多くて、7割くらいがそうです。大きいワンチャンだったり、小型犬だったり、猫、鳥も。毎年来てくれるお客様は部屋まで指定してきますね。海が近くて散歩するとこもたくさんありますし。もちろん、ペットが入れない部屋もあるので普通のお客様も泊まれるんですよ。
あと、お料理にも力をいれていますね。
-お料理の方も教えてください!
能登半島って食材が豊富なところで、海のもんも山のもんも、海藻も美味しいです。あとは能登牛っていう黒毛和牛を味わうこともできます。「能登牛認定店」という制度がありまして、うちはそれをいち早く取りました。ここ近辺にもレストランとかありますけど、海のもんを中心に提供されているお店がやっぱり多いです。そことの差別化を図りたくて能登牛の取り扱いをしています。それが今、一番人気です。
料理は心が表れるもの
-お仕事をする上で大切にしていることを教えてください!
「食を通じてお客様を幸せにしたい」というのが1番の信念です。そのためにいろんな能登の豊かな食材だったり、日本料理の肝とも言える季節感や美しさだったり、テーブルから見える風景だったり、いろんな要素を合わせてお客さんを笑顔にできたら良いなぁと。
前から「お客様に感動してもらえるように」とは思っていたんですけど、最近は、もっと食を通して「人に幸せになってもらいたい」と、より強く思うようになってきました。もっとお客様と地域に還元できることをしていきたいって。
-おもてなしを本当に大切に考えていらっしゃるのですね。その思いが最近強くなったきっかけは何ですか?
コロナの影響もそうですし、お客様からの声ですね。
「これすごいおいしかったよ」と笑顔で言ってもらったり、感動して帰ってもらえればやりがいになりますし。自分も他所で食事をすれば、おもてなしだったり、料理からその人の心が伝わりますもんね。好きな人に「これ食べてください」っていうのと同じだと思いますよ。本当に「喜んでもらいたい!」と思って作れば、普段のものに+αとして料理に表れるんだと思います。
-なにか地域のために行われた活動はありますか?
地元の大谷小中学校で「和食」や「手洗いの大切さ」をテーマにお話しする機会をいただいたことがあります。「本当の出汁のおいしさ」を子どもたちに伝えるために昆布出汁や鰹出汁を実際に味わってもらったり、視覚でも楽しんでもらえるように盛り付けにこだわってみたり。手洗いでは手の汚れを測定する機械を使って、汚れを数字で見えるようにして、手洗いの大切さを体感してもらいました。
”珠洲だから”こそ輝く
-現在、社員を募集されているそうですが、どのような人と一緒に働きたいですか?
まずは珠洲を好きになってくれるような人がいいですね。
それからいろんな企画ができる人。例えば、新しいメニューだったり、季節に応じたプランだったり。「こういうのどうですか」って自らアイデアを出してもらえればありがたいですね。能登は食材が豊かですし、ひとつの食材で何通りもお料理ができると思うんです。この季節はこの食材とか、生産者の人とタッグを組んでとか考えるのも楽しいと思います。
料理は教えることができますから、調理師になりたい人や将来自分でお店を開きたい人にも向いていると思いますよ。
-では最後に、珠洲に興味がある人に向けて”珠洲の自慢ポイント”を教えてください!
食材が良い、景色が良い。あとは人も良い。移住してきても優しく声をかけてくれます。ここら辺は、野菜だったり魚だったり、何かをもらったら何かをあげるという物々交換の文化が根付いています。地域内のコミュニケーションができているということですね。祭りの時にも「ヨバレ」という文化があって、友達や親戚を祭りに呼んでご馳走でもてなします。全然知らない人でも良いんです。
あとは何かやるときの団結感が強いです。例えば「こういう企画したさかいに、一緒にやらんけ」と声をかければ結構まとまります。みんな協力的ですね。
こういう、人と人とのつながりが深いところが珠洲の自慢ですね。
(以上、インタビュー)
丈太郎さんのお仕事・お料理・お客様に対する思いが丁寧であたたかい気持ちになりました。また、地域のことを思う姿勢も真っ直ぐでした。珠洲の食材・景色・人・文化を愛しているからこそだと感じました。
取材前、海鮮丼をいただきました。様々な種類のお魚が乗っていて「このお刺身はなんの魚だろう!」とワクワク。綺麗な盛り付けで、食べる前に写真をたくさん撮りました。海を見ながら美味しいお料理をいただき幸せな気持ちになりました。
味覚はもちろん、視覚でも楽しめる。
丈太郎さんの思いと丁寧なお料理で、幸せな気持ちになれるお店です。
珠洲に来た際はぜひ足を運んでみてください。