能登半島北限に構える大きな網~海と共に生きること~/小泊十六号定置網株式会社

珠洲おしごとファイル
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「やっぱりシメサバが一番好きだね」
そう気さくな笑顔で言うのは小泊(こどまり)十六号定置網株式会社代表取締役の上野 登起男さん。
同社は石川県最北端の地で定置網漁業をおこなっています。
漁のお話はもちろんのこと、上野さんの着飾らない姿勢、自然と対峙することや漁師の生き方など、自然も人も、そのすべてに魅力あふれる素敵なインタビューです。

気さくな笑顔でオンライン取材を受けていただいた上野 登起男さん

いろんな魚が獲れる能登北限の定置網

-定置網漁の一日について教えて下さい。
漁に出かけるのは、10月の半ばくらいから年間200日ほど。夏場は網を抜いて陸揚げし、手入れをします。
漁場は、ある程度近いところにあって片道30分。出港は午前2時半から3時。3時半ごろ現場に着いて、順調にいくと2時間くらいで魚を取り込んで網を揚げ、港に戻ってくるのは、獲れた量にもよりますが5時半から7時ごろです。そこから箱詰めなどをして、解散は8時頃ですね。
また、定期的に網のメンテナンスなどをします。

夜明け前に網を揚げる作業。臨場感がひしひしと伝わってくる。

-網を外している夏は何をしているのですか?
7月いっぱいで一年間の漁期は終わります。定置網は夏場になると枠だけ残して網を外すのですけど、それに10日ほどかかります。すぐには陸に揚げず、港で一週間ほど、潮の流れがないところで沈めておきます。これを「つけ網」というのですけど、網に付いた海藻や貝類、魚の残がいなどを腐らせるためです。
陸揚げして、広げて乾燥させて、それをしていると9月に入ります。1か月ほどかけて網の点検・修理をして、10月にはまた網を仕掛ける準備に入ります。
漁をしていない時期でも、お盆の休み以外はみっちり仕事が入ってますね。

網の手入れも立派な漁師の仕事

-定置網漁の利点は何ですか?
魚を一網打尽にしない点ですね。定置網は、海中に網を固定して張り、入ってくる魚を「待つ」漁法で、最初の入口は網の目が粗いんですが、徐々に目が細かくなっていきます。そのため、なるべく大きい魚だけを獲るという仕組みになっています。
定置網が環境にやさしい漁法といわれているのは、このように魚がある程度自由に網の中で動くことができて、網を揚げる時にたまたま網の中に入っていた魚を獲るからです。実際獲れるのは、網の中にいた魚全体の60%くらいですかね。
サバ、アジ、ブリのほか、メバル、ヒラメ、サワラなど、獲れる魚種も豊富です。

会社の部屋に掛けてある定置網の模型

-魚種の豊富さは珠洲ならではのことなんですか?
確かに立地条件はありますね。うちの定置網は能登半島の一番北限に構えているんですよ。というのも、それ以上北へ出たら強い北西風で定置網が成り立たなくなるんですよね。そういうギリギリの場所なので、風と波がすごいですし潮流も速いですけれど、その分、サバなどの回遊魚から、ヒラメなどの海底の魚まで、いろんな魚種が獲れるのです。

自然の厳しさと向き合い、日々の変化を楽しむ

-漁をしていて一番のやりがいは何ですか。
潮の流れが速い日本海の厳しい環境の中で漁をするので、良い魚が獲れた時はその分嬉しいですね。170kgほどのマグロが獲れたり、クジラが網にかかることもあります。そして珠洲は能登半島の一番東に位置するので、石川県で最初に日の出が見れるんです。大漁のときに朝日を見たときは最高の気分ですね。
それと、私が入社した20年ほど前は乗組員が沢山いて、朝は皆マイクロバスに乗って港へ向かい、漁を終えて大漁の時は、獲れたばかりの魚の刺身を肴に、船に積んである酒を回し飲みしていたんですけど、今は船にチョコレート等のお菓子が積んであります(笑)。
その頃は仕事が終わっても、番屋でまたみんなで飲んでました(笑)。

網にかかった立派なマグロ。スケールの大きさに圧倒されるばかり。

太陽が顔を出し始めた頃。網起しを始める船とカモメの群れ。

-海の魅力はズバリなんでしょう?
自分が好きなこともあるんですけど、毎日変化があって、全く一緒なんてことがないのがいいんじゃないかな。私自身、ストレス発散という意味でも気持ちがすっきりします。
また、自分の船も所有しているので、プライベートでも海に出て刺し網やタコカゴ漁を行っています。

-対して自然と共生する大変さはなんでしょう?
先ほども述べたとおり、この海域の潮の流れは速いです。また濃霧や雪で視界がきかなくなり航行の危険を感じることもあります。近年は地球温暖化の影響により水温が上がり、網にこれまで見たことのない珍しい魚が入っていたり、何年か前には大型クラゲが大量に網に入り魚が獲れにくくなったりしたこともあります。
また、最近は山が荒れてしまっているので、海に流れ出る川の水が濁りやすくなっているんです。定置網は岸から2kmほどの地点に仕掛けているため、川から海に流れ出た泥水が潮によって流されて網に付着することで網が詰まり、魚が入りにくくなることもあります。

-温暖化のお話がありましたが、他に今と昔で何か変化したことはありますか?
情報関係ですね。以前は長年の勘や先輩からの教えでやっていたものでした。「立山が見えたら天気は下り坂」とか。今は、獲れた魚を仕分けるために自動選別機を使ったり、パソコンやスマートフォンで波の高さや潮流、水温などをリアルタイムに見ながら出漁を判断したりすることも可能になりました。船上ではもちろんGPSで自分の位置を確認しています。
ただ、今でも昔からの知恵を併せて活用しています。

船上から見える立山連峰

これからを担う若者への期待

-漁師の勘や知恵というのは、場数を踏まないと身につかないですよね。
そうですね。教える学校もないので、先輩に聞いたり見て盗んだり。やっぱり3年から5年ほどしないと一人前の定置網漁師にはなれない。だからこそ、外国人技能実習生もいいですが、できれば若い日本人が入ってきてほしいです。
今、私の会社では高齢化が進んでいて、技術の伝承がなかなか実現しないんです。漁師が少なくなってきていて、20年前と比べて船の数が半分かな。高齢化が進んで、まちの若い人は勤め人がほとんどで、あまり漁に興味を持ってくれないのが現状です。
自分は、小学生のころから海とふれあってきました。夏休みなどはずっと船の上で過ごしていましたね。でも、今の若い人たちは、子どもの頃から“海に親しむ”という機会が無くなりつつあるので、海に興味を持ちづらいのではないかと思うんですよね。

-どういった人材が欲しいですか?
田舎の方で頑張ってみようとか、そういった人がいれば大歓迎します。
また、定置網漁は漁場も近いですし、グループで動くので他の漁業から見れば安全性があります。時間も朝は早いですが、8時半、早ければ6時には終わりますし、長時間労働はない仕事です。
もちろんロープの扱いや修理など、漁業において基礎的な部分も学べますし。

漁を終えた乗組員たち。素敵な笑顔です。

-最後にはなりますが、これからを生きる若者たちへ一言あればお願いします!
やっぱり自分で好きなことが出来ればよいですけど、好きなことを仕事にするのは難しい。だから、自分の仕事を“好きな仕事”にしていく、仕事に就いてから好きになるようにすればよいと思います。まぁ、なんでも続けていけば好きになると思います。

(以上、インタビュー)


海に囲まれた珠洲市で、子どものころから海と一心同体だった上野さん。定置網のスケールや船上での活動を語る姿がとっても生き生きとしているので、こちらにまで臨場感が存分に伝わってきました。そして何より上野さんは本当に海が好きなんだなぁと心の底から感じました。
内陸県出身の私にとってみれば、お話のすべてが新鮮で、同時に海との生活が大変魅力的に感じました。海に囲まれた奥能登・珠洲という「環境」、そこに暮らす「人々」、その融和が垣間見れたような、そんなひとときでした。

珠洲おしごとライター 川浦風太(金沢大学)
取材日:2020年9月29日
※能登キャンパス構想推進協議会「奥能登チャレンジインターンシップ」として実施