伝統工芸と美味しい料理で珠洲の魅力を伝えよう/古民家レストラン 典座

珠洲おしごとファイル
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どこか懐かしい日本の雰囲気を味わえる空間が珠洲にはあります。
ご紹介するのは古民家レストラン典座。ここはご夫婦で店を切り盛りされており、伝統工芸の器と地元の食材を活かした美味しい料理を一緒に楽しむことができるのが、何よりの魅力です。
今回は、お店をはじめたきっかけや名前の由来にはじまり、珠洲焼や珠洲というまちの魅力などについて、ご主人の坂本 市郎さんにお話をうかがいました。

典座のご主人・坂本 市郎さん。珠洲焼職人としても活躍されている。
(写真はオンライン取材の様子)

典座の誕生とそこに込めた想い

-典座という名前は聞き慣れない言葉ですが、どういった意味があるのですか?
典座とは仏教用語で、食事をつかさどる人のことを指します。仏教では料理を作ることも重要な修行とされており、全ての生きものを粗末に扱わず、生きものをきちんと理解し、正しく向き合うという精神があります。そういった意味合いがいいねと妻の信子と話し合い、「典座」という店名にしました。料理は妻が担当しており、珠洲の精進料理をベースとしたものをお客様にご提供させていただいています。

食材となる生きものに感謝し、心を込めた食事を提供する「典座」のおもてなし

-お店をしてみようと思った理由を教えていただけますか。
私は、幼少の頃は珠洲や金沢で過ごし、その後大学進学を機に東京に住みはじめ、そのまま東京で就職しました。実は、元々は東京でサラリーマンをしていたんですよ。しかし私が30代の時に、父から「珠洲に帰ってきて一緒に陶芸をやらないか」と声をかけてもらいました。私自身、ちょうどその頃、都会の生活にも疲れ、サラリーマンとは別のことをしてみたいと考えていたので「陶芸家という道もありだな」と思い、珠洲に帰ってきました。それから30年が経ちました。東京から帰ってきてから8kgも太りましたよ(笑)。ちなみに、実家はもともと瓦を作る仕事をしていましたが、時代の流れに伴って、父が珠洲焼を作りはじめました。
レストランを始めてみようと思った理由は、当時の珠洲は外食産業がまだ発達していなかったので食事できるところが少なかったんです。そんな中、都会から観光に来ていたお客様から「この辺で食事ができるところはないか」というお言葉をいただくことが多く、子育ても落ち着いたので、妻とともに15年ぐらい前に始めました。

-お店を開くにあたって、不安はなかったですか?
不安はなかったですね。というのは私たちの場合、求められているから店を始めたということももちろんありますが、珠洲の人たちの手厚いサポートのおかげで、すごく始めやすかったからです。珠洲の人はみんな暖かく迎え入れてくれますよ。

唯一無二のレストラン

-古民家のレストランの魅力は何ですか?
築180年、私で6代目なんですが、古民家の魅力はやはり雰囲気が良く、歴史が染み込んでいる点ですね。年配のお客様には「懐かしいなあ」、「昔はこんな家あったよね」とよく言われます。実際に住んだことがない方が多いと思いますが、20代のような若い方にも懐かしいと言われますね。日本人のDNAに刷り込まれたものがあるんじゃないかなと思います。

趣のある古民家の前で。坂本 信子さん・市郎さんご夫婦。

-どのようなお客様が多いのですか?
年配の方の方が多いです。観光の合間のお昼時に寄ってくれます。特に金沢から多くの方がリピーターで何回も足を運んでくれます。もちろん都会からいらっしゃる方も多いです。季節によって様々な料理を用意しているので季節を楽しみながら食事ができますよ。

典座で提供されている料理。アンコウ鍋、カニ丼、ブリ。

カニづくし

珠洲の伝統工芸、珠洲焼の美しさ

-珠洲焼の特徴とは何でしょうか?
珠洲焼は、焼き締めと言って、作ったらそのまま窯に入れて薪で焼きます。釉薬をかけない、窯の中で薪の灰がかかってそれが溶けて艶になるのです。釉薬の技術が日本に入ってくる前にできた焼き物が珠洲焼なんです。市内の陶芸センターでは珠洲焼体験ができますよ。


店内にある坂本 市郎さんの珠洲焼の作品

-1日でどのくらい作っているのですか?
物にもよりますけど、カップとか湯呑みだったら150〜200個ぐらいは作れますよ。大きい物だと乾燥だけで1ヶ月ぐらいかかるのでもっと時間がかかります。

-どのぐらいで珠洲焼職人としての生活が成り立ちましたか?
3年ぐらいですかね。でも工芸品は景気にものすごく影響を受けるので、時代によりますね。バブルの時代は夢のような時代でしたね(笑)。珠洲焼をする人は副業をするのがおすすめです。

珠洲焼をつくる工房にて。実際の作業風景。

誰からも愛される町、珠洲

-珠洲の魅力について教えてください。
周りは車も通らず、虫の声、風や波の音しか聞こえず、景色とか雰囲気が都会とは全然違うので、都会から来る人には日本語の通じる外国に来たとよく言われます(笑)。珠洲は二つの海流がぶつかるところに位置しているため、食材が本当に豊富でいろいろな種類の魚がいるんです。中でもノドグロが有名ですね。また、珠洲には山もあるので、松茸、ワラビ、ゼンマイ、ウド、フキノトウなどの山菜も美味しいですよ。また、土に鉄分が多く含まれているので、スイカやカボチャも甘いです。珠洲は食材の宝庫なんですよ。また、粒が大きく、味が濃い大浜大豆は栽培が難しく、作る人が一時期いなくなってしまいましたが、何とか栽培に成功し、今では特産品になっていますよ。珠洲はとにかく食べ物が美味しい。でも、もっと珠洲に飲食店が増えればいいですね。そして珠洲焼を作る人も増えて珠洲焼の魅力がもっと全国に広がればいいなと思っています。

-最後に読者にメッセージをお願いします。
珠洲というところは歴史的にもすごくおもしろいところなんです。例えば須須神社など、格式が高くて古い歴史を持ったものが多く、歴史が好きな人は珠洲に来るとおもしろいんじゃないかと思います。遊びに来るもよし、働くもよし、一生の住処としてもよしな町が珠洲です。
もし能登で飲食店としてやっていけるのか試してみたい人、悩んでいる人がいたら私たちのお店で働きませんか?実際に働いてもらうことで、能登でお店を開くということはどういうことなのかわかりますよ。そういった思いのある人に来てもらえると嬉しいです。

(インタビュー以上)


職人さんは厳格な方が多いと思っていましたが、坂本さんはとても優しく、笑顔がとても魅力的な方でした。インタビューを通して、坂本さんの珠洲への愛が非常に伝わってきました。こんなに地元の人から愛される地域は他にないかもしれません。それぐらい珠洲には魅力が沢山あるということなんですね!私も珠洲に行ってみたくなりました!皆さんもぜひ珠洲に遊びに行ってみてはいかがでしょうか!

珠洲おしごとライター 加藤来(金沢大学)
取材日:2020年9月29日
※能登キャンパス構想推進協議会「奥能登チャレンジインターンシップ」として実施