お店に連れてってくださった方が言っていました。
「友達が珠洲に遊びに来たときは、あさ井に行けば間違いない。なんでもあるの」と。
その通り、メニューには多様なお料理が載っていました。
しかし、この店が「多様」なのは、お料理だけではありません。
今回のインタビューでは、地元に愛されるお店「ろばた焼 あさ井」の過去・現在・未来を伺ってきました!
地元の方に愛されるお店
-いつからお店を経営しているのですか?
昭和51年、父が20代半ばで作ったお店です。47年目になるのかな。僕は11年ぐらい前に金沢の方から家族で帰ってきたんです。それまでは金沢の老舗の料理屋で働いたり、新しい居酒屋の立ち上げに関わって、料理長を務めたりしていました。
金沢では日本料理の店でしたが、僕の料理の入口というのは、オーストラリアなんです。留学中に、現地で料理の専門学校に入るチャンスがあって、そこでフレンチ、イタリアン、中華など、いろいろなものを幅広く学びました。そこに入学することができて、レストランで働きながら勉強していました。それがだいたい20、 21歳位ですかね。
-オーストラリアですか!? そこは、はじめから目指していたんですか?
いえ、はじめは料理の道に進むつもりはなくて、大学は国内の理工学部に進学しました。でも、ちょっと勉強に行き詰って「どうしよう」と思っている時期があり、もともと英語にはある程度自信があったので「ちょっとオーストラリアに行かしてもらおう」と思って留学したんです。
今思えば、実家がここなので、仕事をする父親の背中をずっと見ていて、子ども心に「お父さんと一緒に働く」と考えていた頃もありました。そうして、気が付いたら、いつの間にか料理の道に入っていたって感じですね。
-多様なメニューの背景はオーストラリアにあるんですね!季節ごとのおすすめはありますか?
春に向けてなら山の幸が美味しくなります。山菜とか筍とか。これがまた、よくもらうんですよ。それをお金にすることができるのも地域に根付いた飲食店の特徴ですね。朝起きて仕入れに行こうと思ったら、店の前にどかんと大根が置いてあったこともあります。
夏は、コロナ前までなら観光客が増える時期ですね。珠洲の海は、ものすごく綺麗なんですよ。もうほんとに沖縄みたいな。沖縄って行ったことないですけどね(笑)。
秋はキノコ系のもの。冬はやっぱり白子、牡蠣、お魚がすごく美味しいです。冬はお魚の脂が乗っていて何を食べても美味しいですね。当然ブリとかカニも。あと海藻かな、珠洲なら。
1日の始まりは散歩から
-1日のスケジュールを教えてください。
ふだんは朝7時20分に子どもを学校に送り、それから新聞を読みます。市場が8時半から始まるので、8時15分に地元の一番信頼している魚屋さんに電話します。腕も良いし目利きも良い人なので完全に信頼していて、「今日2キロぐらいのヒラメが欲しい。でも2,000円までなら買うけど2,500円なら買わない」とかそういう話を電話で交渉します。
それからお散歩をします。亀谷(かめんたん)っていう池の周りに1.5キロの遊歩道があるんですよ。2周40分ぐらいを歩きながらいろいろ考えます。きれいな空気を吸いながら瞑想タイムです。その時間が一番、いい考えが浮かんでくるんです。
そして、9時からスーパーや農協の直売所が開くので、ちょこちょこと買い物をして帰ってきます。そこからだいたい12時ぐらいまで仕込み。仕込みの間に買ってきた食材の調理方法や商品の値段を決めてパソコンでメニュー登録します。それからご飯を食べて少し休憩して、1時半ぐらいからまた夜の営業に向けた仕込みをし、夕方5時からの営業を迎えます。
-お仕事の中で大切にしていることを教えてください!
厨房の中は「舞台」だと思っているんです。お客さんは客席でそのステージを見ながら食事する、というスタイル。だから極力、厨房の中を見えるようにしています。
僕たち、厨房の中で遊びながら仕事をしてるんですけど、実はすごく真面目なんですよ。食材に関してとか物事に対して、ものすごい真面目です。真面目に適当にやっています。真面目だけじゃ人はついてこないし、適当だけじゃ店は潰れてしまう。自分自身が妥協できるラインで真面目にふざけています。その割合をちょっと間違えたら店はすぐにダメなってしまうと思うので。
さいはてに新しい風を
-メニューをスマホから見られるなど、新しいことを取り入れていると伺いました!
QRコードを使ったメニューは、今”withコロナ”ということでなるべく接客の機会を減らした方がいいと思って始めました。お客さんがスマホでメニューを見て注文したら、それが厨房の中の端末に届くんですね。僕らはそれを見ながら調理をするんです。
この仕組みは、はじめ不評でした。地元の人たちから「なんで目の前におるがに注文できんげ」と言われたことがけっこうありました。でもそこはお客さんとの信頼関係で埋めました。「今からはこんな時代やから、コロナやから」とか、「うち移住者のスタッフ多いし、あんたら何て言うとるか分からんさかいにスマホで注文して」って言って。
この仕組みで「移住者の人たちの働く場所」を作りたかったんですよ。
-なぜ移住者に注目を?
僕は移住者の人がすごく好きで、こんな田舎に来てくれたことも当然嬉しいけどやっぱり、僕ら田舎しか知らない人間よりも考え方がすごく斬新であったり、面白かったりするので。そういう子たちの風を、このお店の中に入れて営業できればいいなと思って。移住者がここ数年、増えてきているっていう流れもあるし。
数年前は、全員地元の子でやっていました。当然、今のメニューの仕組みもなかったので、「地元に慣れた人間じゃないと、あさ井の仕事はできない」っていう感じだったんですね。でも、時代の流れとともにやっぱりそこを脱却しないと、これからスタッフの問題には絶対ぶつかるだろうなと思って、たまたま見つけたこの仕組みを取り入れたんです。
みんなも自分も楽しんじゃう!ワンダフルな挑戦の数々
-これから始める新規事業があるそうですが?
まず1つが、デリバリーサービス「A_SA_Eats(アーサーイーツ)」。昨日の朝お散歩してたら思いついて。今メニュー考えているところなんです。
それから、キッチンカーでハンバーガー屋さんをします。能登のお魚を使ったフィッシュバーガーですね。僕の嫁が“かおり“って言うんですけど、“かおり“の“かお“と”カオス“を合わせた「KAO’S BURGER」。それを2月半ばからするのにキッチンカーを注文しています。うちの駐車場に屋根をつけて電気を通し、キッチンカーをとめて椅子も並べる。車内にはビールサーバーも調理器具もあるので、そこでちょっとした“泊まらないグランピング”みたいな体験もできればいいなぁと思って。
-なるほど。面白そうですね!ほかにもあるのですか?
来月からはお座敷の改修工事をします。もともと3部屋だったお座敷を分けて5部屋にし、しかも敷居を全部外せば40人位が一度に入れるようにします。例えば、家族3人でもお座敷に入れるし、30人の宴会もできるし、というような感じですね。それで、ランチタイムの営業とコワーキングスペースとしての貸し出しを準備しています。
大きな65インチ位の壁掛けテレビも設置するので、敷居を全部外してみんなで見ればミニシアターにもなります。そういうことをしようと思って来週から工事が始まります。
-多様な展開が楽しみです。そんな中、今スタッフを募集されているそうですが、どんな人に来て欲しいですか?
そうですね。やっぱり厨房という「舞台」の中で、一緒にワイワイできる人が来てくれたらいいなと思います。
料理の経験がなくても、仕事はそのうちできるようになります。一緒に遊びながら仕事をする、そんな空気を楽しめる人であれば、必ずお客さんとも楽しく接することができるはずです。うちの客さんはすごく客層がいいので「またアルバイト増えたね、この人誰?」って声もかけられる。そこからプライベートでも仲良くなることもあるし、“あさ井“がきっかけになって、珠洲を楽しんでいただく幅が広がればいいなと思っています。
(以上、インタビュー)
あさ井さんは一度行けばファンになってしまう、地元を超えて愛されているお店でした。
最後に実際にアルバイトをされていた“まっすー”さんにお話を伺うと、「つながり」と「価値観」というワードが出てきました。「あさ井」という地元の方に愛されているお店で働くことでつながりを得られ、地元の方の価値観を学ぶことができる。新しい風を取り入れ、これからの日本に必要な多様性に挑戦しているお店だと感じました。
お話を伺いながら、「私も働いてみたい!」とわくわくしました。お料理もとても美味しかったです。
珠洲を訪れたら絶対外せないお店です!